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この作品には精神的暴力・機能不全家庭・
不登校・親子間の心理的虐待に関する
描写が含まれます
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⚠ 注意事項

本作品はフィクションですが、
実在する社会問題をテーマにしています。

精神的DV・機能不全家庭・
不登校・親子依存・人格否定など
重いテーマを含みます。

心身の状態が優れない場合は
閲覧をお控えください。

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お母さん

言葉は、傷になる。

シングルマザーの母と
不登校の息子の、
ある冬の記録
▼ SCROLL
大阪府営住宅、4階。

築40年の団地の一室に、
母と息子は二人で暮らしていた。

2024年 12月
母は朝から夕方までスーパーのレジに立ち、
週3回、夜はキャバクラで働いた。

体は限界だった。
でも、生活は回らなかった。

家賃、光熱費、学費。
足りない。いつも足りない。
息子の名前は、しょうけん

中学3年生。
9月から学校に行っていない。

部屋から出るのは、
トイレと、冷蔵庫の前だけ。
3ヶ月、風呂に入っていない。
歯磨きも、何ヶ月もしていない。

部屋にはゴミが積み上がり、
カーテンは閉ざされたまま。

彼は怠けているのではなかった。
壊れかけていた。
— ACT 1 —

ある夜の、LINEの記録。

PM 7:42
母はスーパーの仕事を終え、帰宅した。
お母さん
📞
12月15日(日)
しょうけん、ご飯作ったで。出てきぃ
19:42
なぁ、聞こえてる?
19:45
既読 19:52
いらん
は?作ったのに?
なんなんその態度
19:52
既読 19:55
あとで食べる
あとでって何時?
こっちも疲れてんねん
19:55
つーかさ、なんでトイレ流さんの
19:57
ほんまありえんねんけど
19:57
既読 20:01
忘れてた。ごめん
忘れるとかある?
普通の子やったらやるで
20:01
あと臭い靴下ずっと置きっぱなしやし
風呂いつ入った?
20:03
既読 20:10
…わからん
歯磨きでも何ヶ月してない?
20:10
既読 20:18
うるさいな
ただの親子喧嘩。
よくある、ありふれたやりとり。

……に、見えた。
— ACT 2 —

翌日の夜。
母はキャバクラのシフトに入る前に、
LINEを送った。

PM 9:15
お母さん
📞
12月16日(月)
今日担任から電話あったわ
21:15
結局学校もすぐ行かんくなる
21:15
9月からやで?もう4ヶ月やで?
21:16
自分の中学生の時と違いすぎて
ほんまにわからん
21:17
既読 21:24
行けるなら行ってるわ
なんで行かれへんの?
理由言うてみぃ
21:24
既読 21:31
わからん…しんどいねん
しんどいって何が?
主語、述語、語彙力、読解力くらい覚えて
21:32
ちゃんと説明もでけへんの?
21:32
大人になったらアホ扱いされるで
21:33
既読 21:40
なんでそんな言い方すんの
事実やん
21:40
部屋もすぐゴミ屋敷にするし
風呂も入らん歯も磨かん
21:41
どうしたら正常でおれるん?
21:42
既読 21:50
正常ってなに
既読 21:50
俺がおかしいって言いたいん?
こっちがしんどいわ
21:51
朝から晩まで働いて帰ってきて
この状態見てどう思う?
21:51
既読 21:58
ちゃんと向き合ってや
向き合う?
こっちは毎日向き合ってるわ
21:58
向き合ってへんのはそっちやろ
21:59
既読 22:05
悲しいわ
悲しいのはこっちやわ
22:05
— 22:30 キャバクラへ出勤 —
母親は息子を愛していた。
愛しているつもりだった。

でも、その「愛」
いつもの形をしていた。

しょうけんの部屋の電気が消える。
カーテンの隙間から、団地の灯りだけが見える。
しょうけんはベッドに横たわり、
天井を見つめていた。

スマホの画面だけが、
暗い部屋で青白く光っている。

「普通の子やったら」
その言葉が、頭の中で繰り返される。
— ACT 3 —

3日後。深夜。

母はキャバクラ帰りに、
同僚と飲みに行った。

AM 2:17
泥酔状態でスマホを握る。
お母さん
📞
12月19日(木)
起きてる?
2:17
なぁ
2:17
起きてるやろ
2:18
なんで無視すんの
2:19
ママかて頑張ってんねん
2:20
なんであんたのために働いてんのに
こんな扱いされなあかんの
2:20
既読 2:24
もう寝てる
寝てないやろ既読ついてるやん
2:24
なんでいつもそうやって逃げるん
2:25
お母さんが何したん
2:25
育て方間違えたんかな
2:26
児相電話して相談しろや
2:27
自分がどんだけ異常かわかってる?
2:27
既読 2:30
人権否定やん
人権?
じゃあ自分で稼いで自分で生きてみぃ
2:30
何もしないで偉そうなこと言うな
2:31
部屋ゴミ屋敷にして
風呂も入らんと
トイレも流さんと
2:31
普通のことすらでけへん奴が人権とか笑わすな
2:32
なんか言えや
既読 2:33
無視すんな
既読 2:34
既読つけて無視て最低やで
既読 2:35
もうええわ
既読 2:38
勝手にしぃ
既読 2:38
— 沈黙 —
ごめんな
既読 3:12
お母さんも疲れてて
どうしたらいいかわからんくなる
既読 3:14
でもな、あんたのこと嫌いちゃうねん
既読 3:15
3:16
わかってる。でも言葉が怖い
しょうけんは未送信ボタンを押せなかった。

メッセージは入力されたまま、
送信されることはなかった。

スマホの光が消える。
部屋は完全な暗闇になった。
— 12月20日 AM 5:48 —

母は店を出た後、
駅前の階段でバランスを崩した。

泥酔していた。
疲労が限界だった。

倒れた。
通行人が119番に電話した。

サイレンの音が、
冬の朝に響いた。
しょうけんのスマホが光る。

通知:

「ごめんな、でもどうしたらいいかわからんかった」

AM 5:32 — 倒れる前に送った最後のメッセージ。
しょうけんは部屋を出た。

暗い廊下に、
誰もいなかった。

冷たい空気だけが
頬に触れた。
お母さん
📞
12月20日(金)
既読つけてや
5:32

このメッセージに、既読がつくことはない。

言葉は、傷になる。
もしあなたが、または あなたの周りの誰かが
苦しんでいるなら


よりそいホットライン
0120-279-338

チャイルドライン
0120-99-7777

ひとりで抱えないでください。